「AA紹介」はこんなスレや話題があったよという感じの普通の紹介ですが、
「AAレビュー」の方はもうちょっと一つの作品に対して深く切り込んでいきたいと考えています。
そして、レビュー第一回目の作品として選ばせていただいたのは、
しι ◆ShishizM(現◆SHISHI8/uA)さんの「夏への扉」です。
保管庫:夏への扉 ((新)モララーのビデオ棚)
この作品を選ばせていただいたのは、作品自体が好きというのももちろんあるのですが、
実はこのブログはしι ◆SHISHI8/uAさんが運営されているブログ、アスキーアート・エッセイに
大いに影響を受けているというのがあったりします。
しιさんのブログは自分がAAを描いて行く上で非常に参考になった記事がたくさんありました。
特に、アスキーアートの起点の記事は、当時の自分は目から鱗でした。
現在、残念ながらしιさんのブログは更新が止まってしまっているようですが、
今度は自分が拙いながらもこうして記事を書くことで、今までAAにはあまり興味の無かった人、
これからAAを描きたいと思ってる人に少しでも興味や何かの参考になってくれれば……
と思ったというのも、このブログを始めるきっかけとなっています。
(5/12補足:なんと、しιさんのブログが一昨日から更新再開しています!これは嬉しい誤算でした。)
というわけで、しιさんへのリスペクトの意味も込めて「夏への扉」をレビューさせていただきます。
この作品の第一話投下は、今から7年前の2002年6月のことでした。
当時のAA技術の水位としてはかなりレベルの高い三頭身表現や凝った背景AA、
そして効果的に挿入される拡大AAで、すぐに長編板においてかなりの話題作となったことを覚えています。
AAはもちろんなのですが、自分がこの作品で何よりも関心したのは原作のアレンジの仕方でした。
このAA作品の原作に当たる「夏への扉」は、SF小説界を代表する作家の一人である、
ロバート・アンスン・ハインラインが1957年に発表したSF小説です。
この小説はSFが好きな人なら、おそらく知らない人はいないと思われるぐらい有名な古典名作で、
自分もこのAA作品を読むずっと以前に原作は既読でした。
原作とAAと同じ点、異なる点を以下に箇条書きしてみます。
*同じ点
-登場人物の名前や性別
-登場人物達の人間関係
-メインストーリーの骨子
*違う点
-舞台となっている年代
-主人公の会社の業務内容
まず、同じ点である名前や性別、これは書いていることがいきなり矛盾するようですが、
詳しくは実は原作とは違います(性別は全員原作と同じです)。
主要人物のフルネームを比べると、
原作:ダニエル・ブーン・デイヴィス ⇒ AA版:ダニエル・ネオモナー・デイヴィス
原作:マイルズ・ジェントリィ ⇒ AA版:マイルズ・モララー・ジェントリィ
原作:ベリンダ・シュルツ・ダーキン ⇒ AA版:ベリンダ・フッサール・シュルツ・ダーキン
となっており、2chキャラ風の名前にちゃんと改変されています。
しかし各自の愛称はそれぞれ、「ダン」、「マイルズ」、「ベル」と、原作とまったく同じなので、
原作を読んだことがある人も違和感をまったく感じずに読み進めることができると思います。
ストーリーの流れとして重要な登場人物達の人間関係や、主人公のダンが親友のマイルズと
恋人であるベルに裏切られ、絶望してタイムスリープを決意という骨子も変わっていません。
次にアレンジにおいてもっとも重要な違う点です。
舞台となっている年代は、原作では1970年ですが、AA版ではダンの生まれが
1980年代という点から考えるに、おそらく1990年代後半~2000年代前半です。
もしかしたらしιさんはずばり、このAAが発表された2002年を想定していたのかもしれません。
わざわざ年代を変えたのは、70年代と言われても、描き手であるしιさん本人も
読み手側の人達もあまりピンと来ないという点もあったかもしれませんが、
これはおそらくインターネット、そして2chをストーリー上の重要な小道具として
使用するためだったという点が大きいと思われます。
そしてこれは次の、主人公の会社の業務内容にも大きく関わってきます。
原作ではダンは、家事用ロボットの「文化女中器(ハイヤード・ガール)」を自ら開発し、
それを売る会社を起業、マイルズと共同経営しているという設定です。
AA版はそれとはガラリと変わり、ダンは2chでAAを描いているいわゆるAA職人で、
AAの諸権利維持のために会社を設立、そしてダンが親しいAA職人集団に企画として持ちかけ、
合同で連載しているAA作品のタイトルが「ハイヤード・ガール」という設定となっています。
ダンの会社はこのAAのキャラクタービジネスが成功し、徐々に大きくなっていきます。
「夏への扉」が始まった当時は丁度タカラのギコ猫問題が起きている渦中のことでした。
これはたまたま偶然だったのか、それともしιさんが積極的に事象を作中に活かしたのかは
定かではありませんが、とりあえずこれまで現実世界で巻き起こった、様々なAAキャラの
キャラクタービジネスにおけるトラブルを知っていると、この辺はなんだかニヤリとさせられるところです。
「夏への扉」以外にも、原作有りのAAというのはたくさん発表されています。
原作を忠実にAA化した物、多少のアレンジを加えた物、大胆にアレンジを加えた物、
AA化の仕方は様々ですが、その中でも「夏への扉」のアレンジ具合は秀逸だったと思います。
最初にも書きましたが、この作品の第一話投下は、今から7年前の2002年6月のことでした。
しかし7年後の今読んでも、決して色褪せていない完成度の高いAA作品です。
惜しむらくは、この作品は現在完結はしていません。
ダンが自分の意思や希望とは反する形でマイルズとベルにコールドスリープさせられ、
目覚めた未来で孤独な奮闘が始まる…というところで続きの投下が無くなってしまいました。
もしもまだ気が乗るようであれば、いつかぜひ続きをお願いしたいものです。
作品の一ファンとしていつまでも気長に待っています。